それは数年前の夏、お盆休みを利用して、実家に帰ったときの事だ。
その年は兄も帰省し、久しぶりに家族が揃った。
張り切った両親は買出しに行こうと言ったが、仕事で疲れていた僕は一人で残り、両親と兄の三人で出かけていった。
かつての自室で携帯をいじっていると、不意に便意を感じ、トイレへ向かった。
僕の実家には、トイレが二つある。
そこまで大きな家ではないのだが、なぜか二つあった。
一つは玄関の近く、「表のトイレ」と呼ばれていた。
もうひとつは家の裏手側、「裏のトイレ」。
僕の部屋からはこの裏のトイレの方が近いのだが、何だか薄暗くかび臭いこのトイレが子供の頃から好きではなく、いつもわざわざ遠い表のトイレを使っていた。
だが、実家を離れてから何年も経っていた僕にとっては、それすらも懐かしい思い出となっていた。
だからその時は、あえて苦手だった裏のトイレに入り、便器に腰掛けた。
そのトイレは、確かに少しかび臭かったが、なんということのない普通のトイレだった。
その時だった。